- はじめに
こんにちは、ゼミ長です。私は精神保健福祉士として、精神障害者の就労支援を行っています。大学院では、精神障害者の就労について研究をしていました。そこで、このサイトでは記事をゼミと称して「障害の有無に関わらず職場でわかりあう」をテーマに、働く精神障害者の悩みや必要な配慮について紹介していきます。
まずいま日本には、精神障害者が何人いるかわかりますか?『令和3年版 障害者白書』(内閣府 2021)によると、在宅の精神障害者は419万人います。ちなみに身体障害者は436万人で、知的障害者は108万人います。この障害者人口のうち、18歳から65歳までの人口は、身体障害者が101万人、知的障害者は58万人、精神障害者は217万人となっていて、精神障害者は圧倒的に若い世代が多いことがわかります。
しかし、精神障害者は身体障害者と比べて他の人から障害がわかりづらいため、職場では「なまけている」「やる気がない」などと言われて仕事が続けられない人が多いのです。精神障害者は一見すると障害がない人と変わらないですが、仕事をすると疲れやすいとか少しのストレスでも落ち込んでしまうなどの悩みがあります。そのため、精神障害者が働き続けるためには職場での障害に対する理解と理解に基づく合理的配慮が必要です。
- 働くための合理的配慮って何
では、職場で必要な合理的配慮とは何か?どのような経緯で、合理的配慮が成立するのかについて説明していきます。そもそも合理的配慮とは、障害を理由とする差別の解消を推進して、障害の有無によって分け隔てられることなく共生する社会の実現を目的とした「障害者差別解消法」に(不当な差別的取り扱いの禁止)と(合理的配慮の提供)が規定されています。
不当な差別的取り扱いの禁止は、障害を理由として正当な理由が無くサービスや機会の提供を拒否することを禁止しています。障害者就労の場面では、面接を拒否することや障害者に対してのみ不当な条件を付すことが該当します。
合理的配慮の提供は、障害者、障害者の家族や支援者などから何らかの配慮を求められたときは、その実施の負担が過重でない範囲において社会的障壁*1を取り除くために必要な配慮を提供することです。
『合理的配慮指針』(厚生労働省 2015)によると、合理的配慮が確定するまでの手順として①障害者から会社への申し出②合理的配慮の内容についての話し合い③合理的配慮の確定という手順で合理的配慮が提供されます。
但し、就職後の障害者の場合は、障害者が自ら事業者へ必要な合理的配慮を申し出ることができない場合があります。そのため、会社は職場で障害者にとって支障となっている事情を確認する必要が有ります。
*1社会的障壁:障害者にとって日常生活や社会生活を営む上で支障となっている事物、制度、慣行、観念その他一切のものを言う(内閣府 2023)
- 働く精神障害者の現状
働く精神障害者については『令和5年度 障害者雇用実態調査結果報告書』*2(厚生労働省 2024)(以下 実態調査結果)によると、以下の通りです。
働いている精神障害者の人口は、21万5千人です。職業別では、事務的職業が 29.2%と最も多く、次いで専門的、技術的 職業(15.6%)、サービスの職業(14.2%)の順に多くなっています。
就業形態では、無期契約の正社員が 29.5%、有期契約の正社員が 3.2%、無期契約の正社員以外が 22.8%、有期契約の正社員以外が 40.6%、無回答が 3.9%です。さらに週所定労働時間では、30時間以上が56.2%、20時間以上30時間未満が29.3%となっています。
賃金の状況では、精神障害者の1ヵ月の平均賃金は、14万9千円(超過勤務手当を除く所定内給与額は14万6千円)となっています。週所定労働時間別にみると、通常(30時間以上)の者が19万3千円、20時間以上30時間未 満の者が12万1千円、10時間以上 20時間未満の者が7万1千円、10時間未満の者が1万6千円という結果です。
次に働いている発達障害者の人口は、9万1千人です。職業別では、サービスの職業が 27.1%と最も多く、次いで事務的職業 (22.7%)、運搬・清掃・包装等の職業(12.5%)の順に多くなっています。
就業形態では、無期契約の正社員が 35.3%、有期契約の正社員が 1.3%、無期契約の正社員以外が 23.8%、有期契約の正社員以外が 37.2%、無回答が 2.4%です。さらに週所定労働時間では、30時間以上が60.7%、20時間以上30時間未満が30%となっています。
賃金の状態では、発達障害者の1ヵ月の平均賃金は、13 万円(超過勤務手当を除く所定内給与額は 12 万8千 円)となっています。週所定労働時間別にみると、通常(30 時間以上)の者が 15 万5千円、20 時間以上 30 時間未 満の者が 10 万7千円、10 時間以上 20 時間未満の者が6万6千円、10 時間未満の者が2万1千 円という結果です。
*2:『令和5年度 障害者雇用実態調査結果報告書』では、精神障害者と発達障害者を区別していますが、このサイトでは精神障害者とは発達障害者を含んでいます。
- 精神障害者が働くうえでの課題
実態調査結果によると、精神障害者と発達障害者の平均勤続年数は、5年3ヶ月と5年1か月です。これは、身体障害者の平均勤続年数が12年2か月、知的障害者の9年1か月と比べると著しく短いです。
このように精神障害者が短い期間で離職してしまう理由して、『平成30年版 障害白書』(厚生労働省 2018)によると、働いた経験のある精神障害者552人にアンケートを行いました。その結果、「職場の雰囲気・人間関係」(33.8%)や「賃 金、労働条件に不満」(29.7%)といった職場環境や労働条件面の課題、「仕事内容が合わない(自分に向かない)」(28.4%)や「作業、能率面で適応できなかった」(25.7%)と いったミスマッチ、「疲れやすく体力、意欲が続かなかった」(28.4%)、「症状が悪化(再 発)した」(25.7%)といった体力との関係での課題があげられました。
一方、精神障害者を雇用している会社側が抱える雇用上の課題として実態調査結果では、精神障害者を雇用するイメージやノウハウが無い、会社内に適当な仕事が無い、精神障害者への安全配慮ができるかといった課題を抱えていました。
- まとめ
精神障害者が働くための環境整備が近年整備されてきましたが、まだまだ他の障害者と比べても平均勤続年数が少なく、賃金の状況も低いと言えます。その理由として、精神障害者側と会社側にそれぞれ雇用での課題を抱えていました。
それら各々の課題を解決して、職場で精神障害者が活躍するためには会社側からの合理的配慮が必要となります。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。そこで次回からは、「精神障害者の職場での悩みと配慮」と題して精神障害者の職場での症状と必要な合理的配慮についての記事を書いていきます。
参考文献
厚生労働省 『合理的配慮指針』 2015
厚生労働省 『令和5年度 障害者雇用実態調査結果報告書』 2024
内閣府 『令和5年版 障害者白書』 2023
厚生労働省 『平成30年版 障害白書』 2018
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