日本の職場では、以前よく使われていた『空気を読む』という事が求められます。「皆まで言わなくても、わかるでしょ」とか説明されていないことでも「普通そのぐらいは常識的にわかるでしょ」と言われることがあります。
ある程度の経験があれば、上司や先輩が何を言いたいのかを察することが出来ます。経験が少ない新人や職場になれていない人の場合は、相手が何を言いたいのかがわからないです。そのため、「空気を読む」という事が出来ないでいます。流石の上司や先輩も、慣れていないのだから仕方がないと新人に対しては文句を言うことがありません。
しかし、仕事の経験があり職場にも慣れている人でも、相手が何を言いたいのか相手が何を考えているのかを想像することが出来ません。精神障害のうちの自閉症スペクトラム障害(以下、ASD)を抱えた人がそうです。今回は、ASDを抱えた人の職場での心の声を紹介します。
働く精神障害者の職場での困りごとエピソード
山坂登はカーディーラーの営業マン。会社に入って3年目。そろそろ仕事にも慣れてきた時期です。
ある日のこと、上司の上野課長が山坂に「明日、徳井社長との商談があるから、新車の見積もりを作っておいてくれオプションは山坂君に任せるから。出来たら机に置いておいてくれ」と言って、山坂の返事も聞かず外回りに行きました。
「は、はい。」と返事をするものの困った山坂。「見積もりを作れと言われても、何を作れば良いんだ~。」
新車の見積もりは、同じ車種でもグレードやオプションを選ばなければならない。またややこしいことに、オプションもメーカーオプションとディーラーオプションがあるのでわけわからん。
兎に角、山坂は新車の見積もりを作り上野課長の机の上に置いておく。明くる日、山坂が出勤してくると上野課長がカンカンに怒っている。「山坂!!なんだこの見積もりは、最低のグレードだしオプションは付いてない。やる気あるのか!!」
山坂は「でも、グレードとオプションがわからなかったので…。」と蚊の鳴くような声。それが余計に腹が立つ。「何年も営業やってりゃ、そのぐらいわかるだろー。」と雷が落ちる。
山坂は「だったら、始めっから言っておいてよ」と、心の中で叫びました。
障害の解説
今回のエピソードは、山坂登が発達障害のASDであった場合の職場での困りごとについて紹介しました。このASDは、人口の2~3%の罹患率であり男女比は4:1の割合です。罹患者の90%が感覚過敏、30~50%に知的障害を合併して、ほかにも多動、不注意、発達性協調運動障害注1、てんかん、視覚優位の認知特性を伴う場合があります。
アメリカ精神医学会『精神疾患の診断マニュアル 第5版』(以下、DSM5)では、ASDの主な症状として①社会的コミュニケーションと対人相互作用の障害、②限局された反復する行動と興味があげられています。以前は、広汎性発達障害と言い自閉症障害、アスペルガー障害、レット障害などと分類がされていました。しかしこれらの障害を分類する根拠が乏しいとのことで、現在は自閉症スペクトラム障害とされています。
ASDの①社会的コミュニケーションと対人相互作用の障害では、『こころの理論』と呼ばれ他人は他人の考え方があり、他人の思いや感情を察したり理解したりすることが苦手とされています。この状況で相手が何を考えているか、何を求めているかを想像することが苦手です。
注1 発達性協調運動障害:四肢や体感の麻痺、欠損などにより日常生活での動作や姿勢意地が困難な状態
働く精神障害者へ必要な職場での配慮
実際の職場で、上司が一から十まで丁寧に指示を出してくれないことがあります。特に山坂のような、3年目の営業マンに対してであれば尚のことです。上野課長にしてみると、「言わなくてもわかるでしょ」という事になります。しかし、ADSを抱えている山坂にとっては、この「言わなくてもわかるでしょ」が職場での困ったに繋がるのです。
山坂にしてみると、上野課長が見積もりに何を求めてるかわからない。そのため、その先に進めないでいたのです。見積もりを作るという事はわかっているが、内容の指示がなかったのでどうすればいいのか?となってしまいます。そこで、上司に見積もりの内容を質問しようとしましたが、上司がいない。困った山坂は、上野課長から言われた内容だけの見積もりを作成したのです。
では、山坂のようにADSを抱えた働く精神障害者への配慮はどのようなものがあるのでしょうか。実際に精神障害者を雇用している企業が行っている合理的配慮の事例を紹介します。まず、明確かつ詳細に指示を出すことが重要です。「言わなくてもわかるでしょ」や「あとは、任せた。」などは、山坂にとっては禁句です。山坂にとっては「何をまかされたの?」となってしまいます。
次に、あらかじめマニュアルを作成しておくべきです。見積もりを作成する際のディーラーオプションは何か、値引き金額を記載するかなどを決めておくと不安になりません。さらに、それらのマニュアルは山坂が見えるところに常時おいておくこともおすすめです。
今回は、自閉症スペクトラム障害の職場での困りごとの一部をご紹介しました。精神障害や発達障害と言っても、仕事や作業ができる人は多くいます。しかし、職場の偏見や配慮が無いばかりに、その能力を発揮できない人もいます。
ぜひ、今回のご紹介いたしましたことを参考にしていただき、職場での障害者の心の声に耳を傾けていただければ幸いです
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